~漂流中~

2017年6月、舌癌になった妻(39)が亡くなった。ADHDの息子(6)、頼りない自分(41)を残して…

■舌癌44 最後のディズニー

2017年3月中旬~下旬






1回目の抗癌剤フルドーズ後の休薬期間から、



次の抗癌剤開始に向けての期間、



自分の思いを全て叶えていきたい。



そんな妻が、力強く生きた記録です。









3月15日



今後の治療の方針について、

主治医と話をしました。



あまりゆっくり相談をする時間は無く、

メモが殴り書きでしか残っていませんが…






次回も、

セツキシマブ、シスプラチン、フルオロウラシル(5-FU)

の3剤を少しバランスを変えて、

インフュージョンリアクションや、

副作用の吐き気などを極力抑えられるように

対策をとって投薬する。



もし、フルドーズ投薬が難しい、辛い場合は、

延命という判断をするしかないかもしれないが、

放射線治療と、セツキシマブ

副作用を抑え気味にしていくか。



本人と、御家族が望むのであれば、

何もしない

という選択肢もあります。

何もしなかった場合に想定されることは…






この時の先生との相談では、

今後、癌の進行に伴う辛さと、

治療と副作用による辛さのバランスを考えた時に

どういう選択肢があるかをよく話しました。



本来であれば望まぬ方法であっても、

まずは病院として出来ることを教えて頂きました。



そして、相談の最後に、

新たな可能性として、

しかし、まだ実現が難しい事について、

出来れば先生はこれを出来るようにしてあげたい

という治療法を話してくれました。






それは、

当時、まだ肺癌と皮膚癌程度にしか保険適用が無く、

頭頸部癌には自費でしか使えなかった抗癌剤

ニボルマブ (別名:オプジーボ)

による治療です。






ニボルマブ (オプジーボ)

www.kegg.jp






呼び方としては

オプジーボの方が知られているんでしょうね。



オプジーボの従来の抗癌剤との1番の違いは、

癌細胞を直接叩く薬ではなく、

癌細胞によって攻撃能力を奪われてしまう

Tリンパ球に働きかけ、

癌細胞がTリンパ球の攻撃能力を奪うために

取り付いてしまう受容体をガードすることによって、

体本来の免疫力を最大限に発揮させて

癌細胞を攻撃することを助ける薬と言われています。



2017年の3月15日の時点では

まだオプジーボは頭頸部癌への保険適用は

ありませんでした。



しかし、この数日後

2017年3月24日に、オプジーボの頭頸部癌の

一部症例に対して保険適用が認められることになります。






オプジーボ、頭頸部がんに適応拡大

gemmed.ghc-j.com






ちょうどこの頃、

オプジーボは奇跡の薬として、

皮膚癌(メラノーマ)や、

非小細胞肺癌等への著しい治療効果が報告され、

様々な癌への利用を求められていた中、

真っ先に頭頸部癌への保険適用は渡りに船。

是非、それをやりたい。

使えるものであれば、是非次の抗癌剤

オプジーボを使いたいと、

妻と共に先生に話をしていました。






3月18日



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妻が、病院へ掛け合っていた、

長期入院患者向けのディズニー特別対応による

ランドパークインが遂に実現。



緩和ケアチームの看護師さんが、

ディズニーとの連携対応をしたことがある方がおり、

その方との相談で実現した特別な対応。



患者の要望を聞き、

可能な限り希望通りに、

病気や症状に対する十分な体制、

バックアップを準備しながら

待ち時間や、並び、場所取りなどをせずに

パークを楽しめる。



医療的な体制や、バックアップを除けば、

キャストの付き添いが無いガイドツアーのような感じ。



また、ゲストアシスタントカードという、

障害者向けの、待ち時間なしでアトラクションを

利用出来るカード

(実際には待ち時間があるが、おおよそ待ち時間

経過後にそこへ戻ってくればすぐに乗せてもらえる)

を使う事が出来るため、列に並ばずに済みます。



ゲストアシスタントカード
castel.jp



※ このゲストアシスタントカードは
  2019年7月頃に廃止され、新しいサービスに
  変わっているようです。

  2019年7月以降は
  ディスアビリティアクセスサービス
  と名称、サービスが変更されました。
www.tokyodisneyresort.jp



👩アナ雪パレードと夜の3Dマッピング
 パートナーズ像のところに席確保してくれたよ。

 プーさんのハニーハント
 バズライトイヤーは入り口で名前を申告すれば、
 いつでも対応してくれるって。

 キャラグリはウッドキャンプのドナデジと。

 昼はハングリーベアのカレーで、
 量の調節してくれるって。



 明日の行動予定

 9:30 病院お迎え
 10:30 in、妻両親と合流
  お土産購入→ロッカーに預ける
 11:00 ハングリーベア
 14:00 ウッドキャンプでキャラグリ
 15:50 フローズンファンタジーパレード
 16:30 バズライトイヤー→プーさん
 19:00 夕飯(スウィートハートカフェのサンドイッチ)
 19:40 フローズンフォーエバー(3Dマッピング)
 20:30 退園

 こんな感じで。






私は、妻を病院から借りた車椅子に乗せ、

車でディズニーランドへ向かいます。



インすると、入院中に欲しいなぁと思っていたグッズを

テキパキと店、場所を指示しながら巡っていく妻。



今日は、妻の全ての想いを、夢を叶える日。

きっと、これだけの物を買っても、

それを楽しむ、自分で使える日は

あと何日も無いかもしれない…

そんな思いも過ぎるなか、

目を輝かせて



👩これだー💕カワイイ💖✨



と買い物を続ける妻に、

いつかの日常を重ねて…



満足するまで買い物に付き合ったところで、

息子を連れた妻ご両親と合流。



モンスターズインクのファストパスをゲット後、

息子の希望に応えるために、

スターツアーズをゲストアシスタントカードで予約。



スターツアーズはそんな混んでないんですけどね😅

ゲストアシスタントカードを初めて使うので、

試しておきたいのもあり…



そのまま、時間は早いがハングリーベアまで歩き、

ゆっくりと昼食。



妻は食べるのに時間が掛かるので、

本当にゆっくり、ゆっくり。



しかし息子が待てるハズは無く、

隣の射的、シューティングギャラリーで

ライフル打ちまくり(笑)



息子は、

ジャングルクルーズへ向かう途中のワゴンで

カレーを食ったばかりなのに

カレーポップコーンを買い(笑)



そして、パークをまたぐるっと歩いて

息子が大好きなスターツアーズへ。



見たことも無い裏口から入り、

スターツアーズ仕様のエレベーターに乗ると、

そこは既にスタースピーダーの搭乗口!

1分で搭乗口に辿り着き、すぐに乗ることが出来ました!



首を何度も手術し、

顎下は大きく組織が壊死し始めている妻が、

ガクガクと揺れるアトラクションに乗って平気かと

何度も確認しましたが、本人は、

息子と乗る!じゃないと来た意味無いでしょ!?

と、譲らず、

私が頭の後ろに手を入れて、

支えるような状態で、これなら行けるか?

とかやってる間にスタースピーダーは動き出し…

息子が



👦やった!カイロレンだ!!



と、声をあげた瞬間に



ライトスピーーード!✨✨✨



もうね、こっちはハラハラドキドキでしたが(笑)

妻は、全然大丈夫だったようで、

これが乗れるなら、だいたい大丈夫そうだね!

と、みんなが緊張感から解き放たれ、

いつものランドを楽しむ皆に戻った感じがしました。





で、

息子はもう1回乗りたい!

と騒がしいので、私と息子の2人だけで

スタンバイ20分待ちでスターツアーズへ。



その間に妻とご両親は、

その当時に新しく出来たドナルドのキャラグリ

ウッドキャンプへ。



スターツアーズを終えた私と息子は、

合流に向かいつつ、ホーンテッドマンション

ファストパスを取って、ドナルドのキャラグリへ。



ウッドキャンプには、60分以上の並びがありましたが、

キャストに連れられて出口から入り、

待ち時間無しで皆で撮影📷✨



ドナルドは、妻の容態を気遣い、



病気なの!?

熱あるの!?

ラクラする!?



と、手を額に当てる身振り手振り。



でも大丈夫だよ!

全員で手を繋いで輪になれば大丈夫!



と言ってたんでしょうね。

全員で手を繋いで輪になり、

妻にチュッとしてくれました。



その時に撮影頂いたキャラグリの写真です。

妻は…顎の下に、

とても大きなガーゼを何枚か重ねたものを

付けているんです。分かりますか?

それくらいのガーゼを付けていないと、

癌が開き、組織が大きく露出した部分を

覆うことが出来ず、浸出液も吸収きれないため、

血液、リンパ液、膿んだような皮膚組織、

口から流れてしまう唾液、飲み物の漏れた水分などが、

首回りや、服を汚してしまうんです…

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その後、妻が一番楽しみにしていたアナ雪のショー

フローズンファンタジーパレードを、

一般客が入れない、

パートナーズ像近くの座席付きエリアに案内されて、

目を丸くして、じーっと見つめる。



ディズニーのショーが大好きだった妻。

多分、これまでに15年間くらいは

ほぼ全てのショーを、カメラを抱えて

一人でもパークに行き、楽しんできた。



いま、その手に

ショーを撮影するカメラは

ありません…



カメラを構える、という事がもう出来そうもない。

それでも、ショーの写真やキャラクターなどの

写真を撮るのが好きだった妻は、

手にしていたタブレットで写真を撮りました。

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この写真は、

つまが残した、ディズニーの最後の写真です…






その後は、ただショーの一点だけを見つめる妻を

私も、ご両親も見つめて、

色々な思いに、胸が締め付けられます…



こちらを見ることも無く

ショーを見ている妻の、

その思いは、いま何処にあるのでしょうか。

何を思うのでしょうか…






その後も、休憩を重ねながら、

予定通りアトラクションを巡っていき、

息子とも仲良く、車椅子に乗りながら

膝の上に乗せたりしながら、

パークを周り、時間が過ぎていました。



そして、夜の3Dプロジェクションマッピングのショー

フローズンフォーエバ

また、用意されたパートナーズ像近くの

指定席から観覧する。



ショーが始まり、

食い入るようにそれを見る妻。






時に嬉しそうに手を叩き、



ビックリして オーッ! と目を見開き、



全身を迫力のサウンドと、



光と映像とが包み込む中、



何を言うでも無く、



こちらを見ることも無く、



涙をボロボロとこぼし始める…






それを見て、私も、ご両親も、

視線をあわせて、涙ぐむ…






あぁ、そうなんだな…



そうなんだよな、きっと…



妻は、



もうディズニーには来れない。



最後のディズニーなんだ…



これでもう最後だと、本人がそう感じている…






妻の願いを叶えた最後のディズニー。

そこに居た全員が、

全てを悟った瞬間だったかもしれません…






しかし、妻は



👩すっごい楽しかった!

 また治ったら一緒に行こうね!



そういって、



夜遅く、既に面会時間が終わった病院に戻り、



出迎えられた看護師と、



今日の楽しかった思い出を話しながら、



またひとり、変わらぬ白い個室に戻っていきました…