~漂流中~

2017年6月、舌癌になった妻(39)が亡くなった。ADHDの息子(6)、頼りない自分(41)を残して…

■舌癌39 恐怖

2017年2月12日(日曜日)



頸動脈に癒着した癌を切除出来ずに、

手術継続不可で傷を閉じて、

撤退するしかなかった手術日から4日目。



私は、前回記事にもあるとおり、

仕事にも行きつつ、

夜は病院に寝泊まりして妻に付き添い、

術後の辛さを介抱していました。



ようやく自力で起きて、

トイレなどにも行けるようになり、

体を起こしてゼリーなどを食べることが出来たり、



呼吸を確保するための気管切開や、

そこに挿入されたカニューレ

また、それに伴うタンや血の滲み等による咳き込み時の

タン吸引などにも慣れてきて、

術後3日目くらいで経過が落ち着いてきた。



妻からも、



👩息子と遊んであげて。

 普段うちの実家でじじばばとしか居ないから、

 土日になると、おとーさん、おとーさん!って

 遊びたくてしょうがないんだよ。

 年パスあげたんだから、

 日曜はディズニーでも行ってきなよ(*^_^*)



と。






ということで、

2月11日(土)の夜は、妻から離れ、

息子の暮らす妻の実家へ。



久しぶりに一緒に過ごす息子は興奮気味で、

私のスマホを奪い取って、なぜか自撮りしまくる(笑)

カメラを使うのが楽しくて仕方ないらしく、

80枚くらい至近距離で自撮りをしまくっていたが、

顔すらちゃんと写ってないクソ写真ばかり(ーー;



妻はそんな息子(もマトモに写ってない)

の写真を見て笑ってくれた(*´ω`*)



私は、興奮する息子をなだめ、

一緒に風呂に入り、

自転車の練習をした事なんかを話しながら就寝。



そして12日(日)は、

息子と2人でディズニーランドへ。






また、妻も一緒にいる気分を味わえるように、

ディズニーランドから息子の様子や、

まだ妻も見たことがないパレードの動画を送る…



息子と2人でディズニーで遊んでいる様子を

Lineで伝えると、妻も良く返事を返してくれて、

言葉が弾んでいるのがわかった。






あれだけディズニー好きで、

ほぼ全てのショーを公開と同時に、

もしくは、公開前のスニークで鑑賞してくる妻よりも先に

私が見に行く日が来るなんて、考えもしなかった。

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この時は、アナとエルサのフローズンファンタジー

が公開された初年度。

まだ妻も見たことがないショー…



写真、動画を送ると、

ショー楽しそうだね!

と、自分が見たことないパレードに興味津々。



パークにもスノーギースいっぱい!

※ 下記二枚の写真は公式サイトよりお借りしました。

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息子も、スノーギースまんを

かわいぃ~💕

とかじりつくも…

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それぞれのパーツに違う具が入っていて、

アンコ的中!

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👦ボクあんこ嫌いなのに~💦



本当は、紫いもクリーム(笑)

食べられず出していましたf(^_^;

他の、ミートソース、サーモンクリーム、

ストロベリークリームは美味しそうに食べてました(*^_^*)



この日は、イッツ・ア・スモールワールド

大規模リニューアル工事中で、

こんなの配っていました。

珍しかったので、後で妻に持っていってあげました。

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一緒に見に行きたかったな…






息子は、いくつかの乗り物で、

膝の上に座りたいとせがんでくる。



私は、子供を膝に乗せたまま

アトラクションには乗れないと思っていたから、

息子を一人で座るよう下ろそうとするが…



息子は、

違う違う!膝の上で!そっちの端に座って!

と言ってくる。



直感的に思った。

妻が、子供を膝に乗せていいアトラクションを知っていて、

息子を膝に乗せて、

一番見やすい位置に座るようにしていたんだと。






息子は全てを覚えている…



お母さんと二人でディズニーに行って、

お母さんの膝に座れていたのは、病気になる前。

今から2年も前、

3歳半ばの頃までだ。



その後、妻を車イスに乗せて一緒にディズニーに行き、

遊んだ事は数回あれど、

その時、息子はアトラクションに乗る時に

何も言わずに一人で座っていた。






おかあさんは、

ボクをだっこしてくれるチカラがないから、

びょうきがいたいから、

おかあさんにはギューしちゃダメだよって

言われていたから…






車椅子で妻を連れて、

家族3人でアトラクションに乗る時も、

妻の膝の上には当然座ろうとしなかったが、

同時に、

私の膝の上にも、絶対に座ろうとはしなかった。



これは息子の、

妻に対する精一杯の思いやりだったのかもしれない。






程なく遊び、妻実家に帰る。



妻を見てくれていた妻の両親から、

今日は気道に痰が絡み辛そうだった、と聞く。



ディズニー帰りで夜も遅かったが、

辛かった、と言っている妻に会いに行くために、

夜、病院へ。






妻は、術後から変わらず、

ベッドの上半身を45度くらいに起こして、

私に気付いて手を振ってくれた。



術後、ベッドが水平に近いと

首に掛かる負担が大きく、

身動きが取りにくく、

首も締まって息が苦しく、

タンでむせやすくもなるという事で、

起きている時も、寝ている時も

常にこの姿勢で過ごしていた。



気管切開により声が出せないため、

筆談で話をする。



今日あった、苦しかった事というのは…



気管にタンが落ち、

急に息が吸えなくなり、

咳き込みも止まらず、

ナースコールをした時のこと。



すぐ駆けつけたナースは、

普段あまり身辺関係の世話をしてくれない

事務仕事ばかりしているナースだったようで、

その場で対応をしてくれず、

他のナースを呼びに行ったらしい。



しかし、妻は呼吸が出来ず、必死の状況で、

その時に吸引をして欲しかったが…

そのナースは、

危機感も無さそうな、急ぐ素振りも見せず、



他のナースを呼んできますね。



とだけ伝え、ナースコールを消し、

戻ってしまったという。



妻の母、つまり義母が居合わせたが、

看護師の代わりに吸引を行うことも出来ず、

他の看護師がすぐ来るのか部屋の外を見たが、

すぐ来る気配は無く、

裏では、窒息状態の妻…!!



義母はフロアに響く大声で叫んだそうです。






助けてください!誰か来て!

息が出来ない!早く来て!!





何人かの看護師が

他の部屋から飛び出してきて、

その中の、妻を一番見てくれている看護師が

駆け込んできてくれて、






ちょっと苦しいよ!頑張って!






と言いながら、

吸引器を強く動かし、

気道深くまでカテーテルを突っ込んで

タンを吸引してくれたそうだ。





ようやく呼吸を取り戻した妻は、

ボロボロ涙をこぼし、

何度も深く呼吸をして、

その看護師にすがりついた。



本人の感覚の話だが、

2分、3分は呼吸が出来なかったと思う、と。

吸うとタンを吸い込んで、反射で咳き込むが、

咳を出す空気が肺に無く、

溺れたような感じになり、

全身が痺れ、意識を失いかけたらしい。



死ぬ!



本気でそう思った。






夜、回診に来た先生に、

筆談で、とても強く訴えたらしい。

息が出来ず死にそうになったと。

ナースコールをしても、

来てくれた人は対応してくれず、

こっちは死にそうな思いをしているのに!






不安な気持ちが溢れたんだと思います。

ある意味、余命宣告されたようなところに

それでも生きようと、立ち向かおうと

気持ちを奮い立たせるときに、

こんな仕打ちを受ければ誰でも当たり前だ。



看護師全体が悪い訳では無い。

後日、よく見てくれる看護師に聞いたが、

その“塩対応”をした看護師は、

別に事務専任という訳ではなく、

他の看護師と立場は変わらないが、

以前からそういう働きぶりなんだそうだ。

命を預かる現場の意識としては

あきれるばかりの態度だが…

他の看護師が、



ごめんなさい。

二度とこういう事が起きないようにします。

怖い思いをさせてしまってすみませんでしたm(__)m



と頭を下げに来てくれた。

塩対応看護師の代わりに…



それ以上は事を荒立てなかったが、

その看護師だけはイヤ!

と、私たちの不安感は無くならなかった。






これは後日の事だが、

看護師にタン吸引をして貰っている時、

苦しいのでは無く、

何が恐怖を感じているような表情をしていて、



話を聞くと、

あれから、タン吸引が怖くてしょうがない

また窒息するんじゃないかって…

癌で死ぬより、窒息で死ぬほうが怖い!

と…



私は看護師に言いました。






🧑それ、自分がやることも出来ますか?

 医療行為だからやってもいい事だとは

 思っていませんが、

 もし出来ることなら、看護師さんだって

 常に付きっきりな訳では無いし、

 他にも手が必要な患者さんもいる訳だし、

 自分が出来るようになることで、

 妻の不安を少しでも無くしてあげたいから…
 





妻は目を丸くして、

そう!それがいい!

という顔。



結局、

本当は医療行為だから、という前置きはあったが、

旦那様なら出来るんじゃないかな?

という話になり、






🧑じゃあ、無理せず、深追いせず、

 苦しくなる前にナースコールするようにするので、

 少し出来るようにしていってみます。

 ありがとうございます。






と、吸引の仕事は任せてくれることになった。



後に、妻を見てくれていた

看護師リーダーさんがいる目の前でも、

吸引だけは私がいい、と妻が言うようになり、

看護のプロの目の前でも、吸引は

私がやることを認めてくれるようになっていきます。

(最終的には、注射や、点滴を除く、身辺介護の殆どを私がやるようになっていきますが。)






話は戻って、

窒息事件があったその日の夜。






自分は1度家に帰ったが、

家に着いてすぐ、21時過ぎ頃に

妻からLINEが入ります。






👩一人だと不安になる!ずっと一緒にいて欲しい…!






窒息しかけた事が、相当に恐怖だったんだと思います。

ただでさえ、呼吸も普段とは違い、

口からは息が吸えず、

喉に開けられた穴から呼吸をする。

酸素の流入量も、きっと普通の呼吸とは違う筈。






この不安な気持ちを今受け止めずに、

いつ受け止められるのか。



不安や、助けを求める声は、

今、恐怖や孤独、絶望感を感じているからこそ

相手の都合を顧みずに訴えてくるのだから。



妻は今、初めて本当の死の恐怖と対峙し、

一人押しつぶされそうな不安のなか、

病院の個室で一人でいる。



不安を感じないようにしてあげるだけでも、

辛さ、痛みは和らぐ。

焦り、焦燥感が薄れれば気持ちも落ち着く。

今、少しでも妻の辛さを取り除いてあげる事は、

私の一番の願い。



たとえ、自分の予定がどうであろうが、

また明日行くよ。

などと言おうものなら、

妻を、恐怖と絶望と孤独感の深淵に

叩き落とすことになるだろう。



自分には、そんなことは出来ない。



明日は仕事を休み、今晩から1日側にいて話をしよう…。



すぐに病院へ連絡し、

妻からのSOSがあった事を連絡。

急で悪いが、今から病院へ行き、

まずは1日、今晩付き添いをさせて欲しいと

無理を押してお願いする。



許可を頂き、

1泊分の荷物準備をして、

今帰ってきた道をまた病院へと戻る。



妻は、先程と変わらずベッドにいて、

来てくれた!ありがとう!

という表情で私を迎えてくれた。



どんなに怖い思いをしたとしても、

安心出来る人が近くにいれば、

不安感など一瞬で吹き飛ぶ気持ちは

私もよく理解出来る。






夜も11時になろうとする深夜。



今夜は、



出来る限り妻の不安を取り除けるよう、



寄り添い、手を取り、話しかける。



時に笑い話を、



時に21年間の思い出を…