~漂流中~

2017年6月、舌癌になった妻(39)が亡くなった。ADHDの息子(6)、頼りない自分(41)を残して…

■舌癌35 現実と非現実の境界

2017年2月3日



手術前最後の外泊。



先日のディズニーシーで疲れてしまったのか、

息子は、熱を出して調子を崩してしまったため、

今日、明日は妻と二人で過ごします。

息子は、残念ながら妻実家で療養中。






妻は、2月2日から、

顎の下に出来ていた皮膚に穴が開いていた部分が、

口の中、口腔低と完全に繋がり貫通してしまった…



口の中のものがそこから出てくる。

飲み込む時の圧力で、

空気と一緒にジュルジュルと吹き出してくる。



モルヒネ系の痛み止めを複数、

痛みの出方に応じて緩和ケアとして利用しているため、

痛くはないらしい…



いよいよ癌が顎の下を食い破り、

周囲組織にも広がってきている。






手術が遅いのではないのか…






2016年年末に、

「今後の治療方針は、抗癌剤を1~2クールやってから

手術しましょう。」

と言われていた時から思っていたことだ。



いや、もっと小さな思いの頃まで遡れば、

小線源治療をした後、過酷な放射線副作用に耐え、

ようやく体が回復してきたと同時に、

顎の下に腫瘍が出来た時、

これを今すぐ取らないと大変な事になりそうだ…

と感じた、2016年夏~秋頃まで遡る。

aegis-pilebunker.hateblo.jp



その頃からずっと、

どちらにしても取らなければならないものなら、

今すぐ取った方がいいのではないか?

と主治医には相談していたが、

放射線治療の後は、血管、組織が脆くなり、

影響範囲が分かって、治癒する範囲を把握しなければ

切ることは出来ない、と言われてきた。



そもそも、それが癌だと判断出来なければ

仮定で顎切除は出来ない。

放射線副作用による壊死か、癌かの見極めは

治療直後では難しく、治癒を待つしかない。



放射線治療後の判断の難しさを

とても強く感じたところでもあった。



そう言われてきて、手術まで3~4ヶ月。



この間、

本当に大丈夫か、手遅れではないか?

と、気持ちは焦り、

どうすれば早く退所出来るかを聞いてきたが、

選択肢は今の流れしかなかった。






妻と2人過ごしたこの日、

毎年恒例になっていたStettlerのチョコを買うために

イクスピアリへ…

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ステットラーはスイスのチョコレートメーカーで、

1日に何個作れるか?ではなく、

1粒にどれだけの技術とまごころを込めたものを

作れるかにこだわった60年も続く老舗ブランド。

www.chocolaterie-stettler.com



一応、日本にもブランド展開はされていますが、

基本、店舗は無く、バレンタインの時期だけ、

各所に臨時店舗が何店か出るだけで、

ネット販売でも、バレンタインの時期以外は

買える所が無かったんじゃないかな?

在庫が残っていたら時期外れでも

販売を続けることはあるかもしれませんが…

間違ってたらすみません。



最近は並行輸入とかも横行するので、

どこかで買えるのかもしれませんが。



ディズニーリゾートにあるイクスピアリには

毎年店が出ますので、気になる方は是非。



以前にもこのチョコの紹介はしていますが、

これが本当に美味しい。

とくに、代表的なチョコである

パヴェ・ド・ジュネーブ(ジュネーブの石畳)

と名が付いた上記写真のチョコは、

私と妻が、世界一美味いチョコとして

ハマりにハマっていたもので…



チョコ以外の要素は何もない、純然たるチョコ。

フルーツの香りやら、可愛い見た目やら、中に何か入っているやらと、

そういった余計なものは何も無く、

ただ純粋にチョコの美味しさだけを追求した

究極のチョコ。



特に、一番感動するのは、

重さ、ベタつき、チリチリとするような甘さを

一切感じないこと。

食べた後に、何かで流したくなるような

チョコ独特のあのモッタリ感が一切ありません。

物凄く強いチョコ感を口の中に広げたあと、

全てが蒸発するように消えていく口溶け。

本当に美味しいです。



チョコの楽しみ方は人それぞれですし、

見た目の可愛さや、

チョコ以外の要素をいかに追加して、元のチョコの魅力を更に引き立たせる事が出来るか、

なども勿論チョコの楽しみ方の1つですので、

純然たるチョコだけがキングオブチョコという訳ではありませんけどね。





ただ、やはりそれなりにお高いです。

金額の方は紛れもなくキングオブ高級品です((((;゚Д゚)))))))

でも、これを楽しめるなら全然払いますけど(*´ω`*)






来年はこれを買いに来れるのか、

また2人で見つけた、2人だけの楽しみを

また感じることが出来るのか…



私はそんな思いを抱きながら、

1年前には妻のその足で元気に歩いていたイクスピアリの石畳を、

今年は、車椅子でガタガタと押しながら、

チョコの販売店が並ぶイベントエリアを目指します。



顔も相当に浮腫み、

明らかに、重篤な状態1歩手前ではないか…と

一目でそう見られてしまう状況の妻でしたが、

妻は、そんなことはお構いなく、



👩また買いに来ました!



と、目を輝かせて、

予め書いて持ってきたメモを店員に渡して、

3万円以上にもなるチョコを

躊躇することもなく買っていきます。



人が喜ぶことをするのが大好きだった妻。

お世話になった人達みんなへ、

自分が大好きだったものを渡すために。

私の分も、普段の倍の量を…



一切口には出しませんでしたが、

世界一大好きだったチョコを楽しめるのは

もしかしたらこれが最後かもしれない…

きっとそう思っていたんじゃないかと思います。






嬉しくて、



悲しくて、



普段と違う買い方をする妻に、



何か、遠くへ行ってしまうような感覚に襲われ…



こんなにいっぱい…!と、

計算機を片手に金額を間違えまくる

困惑する店員さんに、



私は、ただ



本当に好きなんですよ。



今しか買えないですからね(*´ω`*)



と、笑顔にならない笑顔を返すのが精一杯で…






チョコを袋一杯買った後は、

ナナズグリーンティで昼御飯を。



抹茶専門のカフェですが、

ご飯ものがとても美味しくて、

妻もよくディズニーおひとり様だった時に

食べていたみたいです。



天然マグロとアボカドのとろろどんぶり が

大好きでした!

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写真は公式サイトのメニューから拝借しました。



妻は、穴が空いてしまっている顎下に

大きなガーゼを何重かに貼って、

医療用の大きなマスクで覆って、

そこから食べ物や、水分が吹き出さないように

苦労しながらも、上手に食べていました。



周りの客からすれば、

とても気になる状況だったんでしょうね。

酷く浮腫んだ顔に、

大きなガーゼとマスクを顎に付けたまま

食事をする二人。



私はまったく周囲が気になる事はありませんでしたが、

自分が逆の、周囲の立場だったとしたら、

状況が把握出来るまでは、

そちらをチラチラと見てしまうでしょうね。

普段の日常では、決して見ることがない光景ですから。






自分の想いを貫き、

やりたいことを、やりたいようにやる妻らしさ。

この、自分の想いを貫く行動力に

私は惚れていたんだと思います。






私も、自分の好きなことは好きなようにやらせて貰い、

やはり同じように、自分の好きなことに妻もついてくる。



お互いに好きなことをやり、

相手の好きなことに付いていき、

知らないことは教えてもらう。



自分が1番知っていること、

自分が全然知らないこと、

互いに興味を持って、面倒くさがる事もなく、

自分が1番好きなことをやることが、

相手にとって一番の刺激になり、

相手の喜ぶ顔が、自分の一番の嬉しさになる。



ダメだ…

妻との思い出が詰まっている時の話をすると、

本当に色々な事を思い出してしまいます…






そして、昼食後はディズニーシーにIN。



スウィートダッフィーのオブジェの前で写真を撮り、

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タワテラ、トイマニと、いつものコースをこなして、

夕飯までの時間、想い出話をしながら、

車椅子でパークを回る。



ミラコスタの外壁を金色に染める、

日が落ちていくほんの15分くらいしかない

全てのものが輝く瞬間、

この景色を目に焼き付けるように。



👩やっぱりディズニーは楽しいなぁ、
 また皆で来たいなぁ…



🧑大丈夫、きっとまた来れるよ。必ず良くなる。
 これで最後なんて、そんなことない。



この言葉を妻が自分から言うなんて…



妻自身が、もうここには来れないかもしれない、

という想いを抱いている事に、

生きている間にそれを思う瞬間があるなんて

1度も考えたことは無かった。



何か、



後戻りが出来ない、避けようが無い



取り戻すことが出来ない、見えない一線を



今、この瞬間に超えて行ったような、



もう、自分たちの力で



話を動かすことが出来なくなったような、



現実味の無い、朧気な世界。



自分たちを取り巻く全てが



全てが曖昧になっていくような…






この時の感情を、うまく言葉に出来ない。



全て、信じたくなかったのかもしれない。



あたりはバレンタインムード一色で、



私たちのような、



今日で、この生活も最後かもしれない…



なんて思いでここに来ている人はいない。






日もすっかり落ち、

あたりは恋人たちの背中を照らす

イルミネーションで満たされる。



アメリカンウォーターフロント

SSコロンビア号の前の広場にも、

恋人たちを光で祝福するモニュメントが。

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この日は、色々な所に

こんなイルミネーションが沢山あって、

暗くなった後も本当に景色が綺麗でした。






夕飯は、SSコロンビアレストランで

コース料理を二人でシェア。



妻は、きっと食べるのが大変だから、と

スープを2つ注文。

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二人の結婚について話をし、

息子の話をし、

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妻の話をして…

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お腹一杯に、幸せいっぱいになるまで。

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最後に、

少し早い結婚記念日を、

結婚記念日の3日前に行われる手術の前にやりたい、

と、予約も無しに急遽の申し出に、

キャストさん達は快く受けていただき、

しばらく待つと、

思いもよらないプレートでのお祝いメッセージが!

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これにはたまらず、

嬉しくて嬉しくて二人で泣きました。



手術頑張って!

また12年目の記念日に来てください!



と、励ましの言葉まで頂き、

妻の目にまた希望の光が戻った気がした…

本当に感謝しかなかった。

ディズニーの魔法に掛かった瞬間だった。



願えば叶う…



この言葉を力に、手術頑張ろうな!

と、想いを一つにして、

レストランを出る時にも

沢山のキャストさんに見送られ、

必ず来年も来てください!

必ず手術は成功します!

待っていますからね!

と励まされて、パークを後にしました。






この手術前の外泊は明日までの3日間。

夢の世界からまた現実に引き戻され、

見たくはない現実がまた目の前に迫ってくる。



でも、

今回のディズニートリップは

人知れず深く深く落ち込んでいた妻に、

希望を与えてくれたように見えた。






まだまだ諦められない。



悲観なんてしていられない。



たとえ現実が辛くても、



たとえ非現実的な世界だけが、



辛い現実を忘れられる唯一の場所だとしても、



それで希望が持てるなら、



笑顔で居られるなら、それでもいい。



もし、手術が成功したら、



二人で、堂々とまたディズニーに来よう。



たとえ顔に大きな傷があったとしても、



ゲートをくぐれば、そこは妻が妻でいられる世界。



そうやって、2年、3年過ごせば、



また自信を持ってみんなの前に出ていける日が必ず来る。



大変かもしれないけど、



2人なら必ず、辛い現実も乗り越えていける。






それでも、結婚11年目の記念日が



こんな状況の中で迎えることになるなんて、



あまりに辛すぎる。