~漂流中~

2017年6月、舌癌になった妻(39)が亡くなった。ADHDの息子(6)、頼りない自分(41)を残して…

■舌癌08 術後生検結果

2015年12月上旬

舌切除手術から約10日後頃。

珍しく妻の方からLINEが入ります。



生検の結果が出たよ~(゜▽゜*)💖
聞きたい??
初期のガン、と出ましたーヾ(≧∇≦*)/



既に手術を決めた時には、これは癌だと思っていたので改めて驚きはしませんでしたが、

なぜそのテンション?(笑)
妻のこういう性格、大好きでした。



主治医の先生から受けた説明としては以下の通り。


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扁平上皮癌ステージ1

今のところ転移は認めず。

術中の迅速診断でも、残した舌側には癌細胞は見つからず。

切除した組織の中で、集積した癌細胞から、筋繊維に別け入るように伸びる細胞があり、塊を形成する癌細胞とは違い、活発な動きが見られる。

若干、悪性度が高いとみられます。

頭頚部の癌は、高い確率で頚部リンパへの転移が起きますから、転移が無くても癌の残りを綺麗に掃除するイメージで、頚部への放射線治療はやるべきでしょう。

もしリンパ転移があれば、リンパ郭清手術の後に、放射線治療を。

抗がん剤治療は、転移再発が無ければ不要だと思いますが、もちろん抗がん剤をやっておくという選択肢もあります。

海外の最近のメジャーな治療方法としては、切除手術の後に放射線抗がん剤を同時に行う方法が流行っています。

ただ、エビデンスという意味では、明らかな治療成績の違いなどはまだ認められていません。(2015年12月時点)

また、放射線抗がん剤の同時治療は相当ヘビーな治療です。

どのように治療を進めるかは明日までに決めてきて下さい。


主治医の判断としては以下の通り。

 悪い部分はすべて取っている。

 癌の状態としても初期の判断。

 放射線だけやって頚まわり綺麗に掃除。

 抗がん剤併用は本人家族に判断を委ねる。

 1年くらい再発転移が無いか注意して見ていく。


現時点での、5年生存率の枠で考えると80%という事になります。

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5年生存率…

どんな癌患者も、家族も、必ず目の当たりにする事になる、

今後の治療をどうするか?

という事。



そして、誰もが次のような  相反する判断  に悩み、
しかし  悩むことを時間が許してくれない  という状況に更に苦しめられる事になると思います。



この癌を治すことが出来る治療法を知りたい。

しかし、
治る、という治療があるわけではない。
様々な治療法、治療順序があるように、癌の方も人それぞれ違い、同じ治療が効果があるという訳ではない。
また、全ての治療法を紹介してくれる医者などいない。基本は主治医の得意分野で話をされるだけだ。医者はベストな治療を選べない。
結局、患者や家族が自ら勉強し、自ら治療法に辿り着き、その治療法が出来るのかどうか、医者へ問いたださなければならない。
選ぶのは患者自身、家族なのだ。



今出来る治療のうち、最も治療効果のある方法で治療したい。

しかし、
抗がん剤放射線治療を同時に行う治療等は体に相当な負担が掛かる。体がそれに耐えきれず、結果として間質性肺炎などを併発し、癌以外の理由で無くなってしまう人も数%はいる。
ヘビーな治療は、大変なリスクを承知で治療法を選択頂く必要がある。

また、切除手術の傷が癒える前に抗がん剤放射線治療は出来ない。傷が治らずに組織が壊死していってしまう。
切除後は、およそ1ヶ月は治癒とリハビリに専念する期間となる。
その間に起きてくる様々な気になる症状があった場合、もちろん検査をしていくが、傷の治りなのか癌の再発なのか判断がつきにくいため、判断が明確にならないことが多い。

やりたくても出来ない。
ということが常に付きまとう。



どんな治療法があるのかもっと知りたい。調べたい。

しかし、
治療方法、治療順序、使える抗がん剤、また、今の時点では使いたくても使えない抗がん剤など、選べる選択肢は多い中で、どんなにやって欲しくても出来ない治療もあり、それらを踏まえた上で数日中に治療方針を決めなければならない。
調べたくても信頼できる情報源は十分には無く、ネットの嘘か真か分からないような情報ばかりがヒットする中、時間は過ぎていく。
また、調べた治療法が本人に効くかどうかも不明だ。



そして…
一度決めた治療法の結果が出るまでには、最低でも2~3ヶ月の期間が必要となる。

その間、その治療が効こうが効くまいが、様子を見る、ということしか出来ない。闇雲に治療法を変更は出来ない。

万が一、効果がない治療を選択すれば、自分達で選んだ治療法に苦しめられながら、更に癌は日増しに悪化していく。
癌による苦しみ、痛みも増し、思うように効果が得られるかどうかがまだ判断しきれない状態のまま、時間だけが過ぎていく。

対処が遅くなれば命を失う事になる、という事が目前に迫っていたとしてもだ。



一切の後戻りが出来ない状態で、
最愛の人の命をギャンブルに掛けるような話し合いが、家族内で繰り広げられる。



選んだ選択肢を家族に伝えれば、

それで大丈夫なの?

と聞かれる。



癌治療に 大丈夫 など無いのだ。
これで大丈夫、一番良い選択肢、などと軽々しく言うことは出来ない。

しかし、それでも、
癌と、治療法の勉強をせずに、与えられた情報だけで判断する大半の人たちは、大丈夫など無い、という現実を受け止められない。

全力を尽くす。
それがどのような結果に繋がるかは分からない。

癌治療とはそういうことだと思う。



癌に対して最大の駆逐効果がある治療を行ったとすれば、

これが一番癌には効く。

と言えるかもしれないが、
その結果、体か耐えきれず命を失えば、それが最適だったか?と聞かれた時に何と答えられるのだろう。

また、そういう治療は、患者本人にとっては最悪の苦しみを与える治療である事も少なくない。
それを、最愛の人、家族に、要求することを、躊躇せずに選択できる人がどれだけいるだろうか。

ハイリスク、ハイリターンという選択は、正に命のギャンブルだ。



この判断を迫られているとき、
実際には、もっと沢山の問題、悩みを抱える事になる。

どう生活していくか?

誰が親の面倒を、子の面倒を、患者本人の世話を見ていくか?

仕事をどうするか?

金は大丈夫か?

保険の手続きは?

数々の判断、体制作りと同時に、癌治療判断を求められ、

判断の為に情報を収集し、勉強し、

時間に追われて真の決断が出来ないまま、

身近な人たち全員の理解は得られないまま、

本当に大丈夫か?

と答えようの無い事を聞かれながら、

決断を迫られる。



これが現実だ。



しかし妻は、
自分のこの無限とも思える悩みを一蹴する。



もう取っちまって自分の一部じゃないモノが癌だって、どーってこと無いわ👍

治すのは医者だよ。
私は寝てるだけ!楽チン楽チン🎵



この時は、
この言葉にどれだけ救われた事か。

一時の事だったかもしれないが、これほどまでにポジティブになれる妻のど根性に心底感服した瞬間だった。



そして、選択した治療は、頚部への放射線治療

抗がん剤放射線治療後に行う予定とする。



この時はまだ、

放射線治療後の経過が

舌切除手術の比にならないほど辛い状態が続くとは

誰も思ってはいませんでした。