~漂流中~

2017年6月、舌癌になった妻(39)が亡くなった。ADHDの息子(6)、頼りない自分(41)を残して…

■舌癌36 2人のすれ違う後悔

2017年2月4日



4日後に控えた、

舌亜切除、右下顎骨区域切除を含む広域切除手術。



まだ若く、手術に耐えられるであろう予測の上で

行われるこの手術の後、



本当に癌を取り除き、

体が回復するか、

退院が出来る状態になるか、

判断は非常に難しいとハッキリと言われるなか、



もしかしたら、自由に行動出来るのは

半年先か、1年先か、

もしくは、今だけなのか…



そんな思いで、手術前最後の外泊日を過ごしていました。



2月4日は外泊最終日。

夜までには病院に戻らなければならない。



昨日はディズニーリゾートへ外出していたため、

今日は大事を取って自宅でゆっくり過ごす。



自分たちが今まで10年以上住んできた家。

次、この家に戻るのはいつの頃か…



妻のために食事を作り、

マッサージをして、

ゆったりとした時間を過ごす。



息子は風邪をひき、妻実家で療養中のため、

この時間を二人だけで楽しんだ。



夕飯は、妻のリクエストで美味しいお肉が食べたい!

という事で、

イクスピアリの今半でスキヤキの予定だったが、

予約をしていなかったため店が一杯で

急遽、焼き肉のトラジへ。



本日の特選肉、ザブトンが最高に美味くて、

妻に食べられるだけ食べさせてあげた。



焼肉なんて、妻はあまり好きじゃなかったから

殆ど行ったことはなかったが、

病気になり、

色々なものが食べ難くなった中で、

とろけるような柔らかい肉だけはとても食べやすく、

味もわかりやすい、

何より、肉を食べると元気出るね!

と、

病気の前の妻からは絶対に聞くことがなかった

肉Love❤

な発言もあり、

それほどまでに好きになったものであれば

好きなだけお食べよ(*^ー^)ノ♪

と、手術前最後の豪華な晩餐を振舞った。



決して、そう思っていた訳では無いが、

万が一の事があれば、

これは妻にとって最後の晩餐になる…かもしれない。



もうこのあとは…奇跡の根治がなければ、

口から物を食べる事は叶わないかもしれない。



笑顔で、いつもの二人のままで過ごしたが、

どんなに思わないようにしていても、

最悪のケースであった場合、

食事をする、美味しいを感じる瞬間は

今、この時が最後になるかもしれない、

その時間は決して取り戻せない、

そうなってからでは後悔してももう遅い…



でも、

これが最後だから、とは絶対に言えない。

だからこそ、

全ての行動、判断を、

常に最高の、後悔のないものにしていかないといけない。






妻は病気の事を、殆ど誰にも話さなかった。

妻を知る友人、仕事仲間、昔からの親友にも。

私にすら、病気のことや、これからの生活のこと、

何があった時、どうして欲しいか、など。



刻々と病状が進行していくなか、

みんなが心配するなか、

妻はただ、自分の思いを叶えようと行動し、

今日は何がしたい、明日は何がしたい、と

自分の思い、願いを、1つずつクリアしていく、

そんな毎日を過ごしていた。






そんな中でも、唯一口にしていたのは、



今まで選んできた治療、判断、選択に

なにも後悔はないよ。

だって、自分でこれが一番と思った事を

ちゃんとやってきたんだもん。

後悔してないよ。

それで治らないなら…

それ以上やりようがないなら仕方ないよね。



と。



そう言う妻に対して自分が出来る事は、

妻のやりたいようにやらせてやり、

やりたいことが出来るようにサポートしてあげること。



そして、

この先、どんな事があったとしても、

妻のやりたいことをやらせてあげるために、

痛さや、苦しさを最大限取り除き、

辛さを感じない状態で過ごして貰うために、

自分の出来る全ての事をして行くよ。



そう誓った。






夜、病院にもどり、

また妻を一人残して家路につく。

この瞬間は、何度経験しても辛い…






あと数日後、

とにかく手術が成功し、

ただ癌が体から消えれば、

顎の半分を切った人でも1年後には、

再建手術、リハビリを通して、

お煎餅を食べられるようになる人もいるという。



主治医の先生が治療した80歳を超えるおじいちゃんが

実際に同じ治療を受けて元気にやっているらしい。

妻も…そうなれる事を信じて励ますしかない。






生きて、家に帰る。



もう願いはこれひとつしかない。






2月6日



手術の方法に変更あり。



麻酔を吸入させる際、

顎の穴から出てしまうため、

適正な麻酔量の計算が出来ない。



より麻酔量の正確さを求めるために、

意識のある状態で、先に気管切開を行ってから

気管切開の穴を通して、そこから麻酔を掛け、

手術を開始するらしい。

と妻から連絡があった。



手術説明は、明日ちゃんとした説明がある予定。

また、術前MRIの診断結果も

手術説明の中で確認するとの事。






なんとも…



全身麻酔中の気管切開なら

少なくともその時の痛みや恐怖は無いのに…



通常、気管切開は、

手術の全身麻酔中に行うか、

事故や、病状の悪化などに伴う命に関わる呼吸困難など、

一刻を争う場合などに行われる場合が多い。



いくら部分麻酔をされたからといっても、

部分麻酔後の生検注射でさえ痛いというのに、

気管まで貫通する大きな穴をあけられ、

そこに無理矢理、小指程度の太さ、長さの管を、

突っ込まれて気道を確保されるという、

この痛みと恐怖はハンパではない。



どうしてこうも辛い選択ばかり迫られるのか。



やることは決まっている中でも、

出来る限り辛さを感じないように対処をして欲しい、

と願う一心、他に方法はないのか…

とも言いたくなるが、

方法はこれしかないのが現実。

少しでも痛みや辛さから守ってあげたい、

という気持ちを押しつぶして、

ただ、わかりました。と言うことしか出来ない。






昨日の夜は息苦しさで殆ど寝れなかった、

と、妻から連絡もあった。

今日は昼寝も出来なかったと…



手術に向けての緊張感や、

プレッシャー、

癌化組織の肥大による痛み、圧迫など、

色々な要因はあるとは思うが、

辛い治療を行うのであれば、

せめて、この慢性的な息苦しさからは

気管切開で解放されて欲しいと思う。






今日、顎の創部の状態を見た。

指1本が入りそうなほどの穴が、

顎の下にあいているように見える。



回りの皮膚、肉はめくれ上がるように外に開き、

噴火口のような形状に腫れ上がっている。



中は皮膚組織が溶けたような状態で、

灰色のドロドロしたものが広がっている。



顎の下にあんなにも大きな病巣、穴が広がり、

顎片方の区域切除なんかで足りるのだろうか…



正直、素人目で見ても、

下顎前部はすべて切らなければ

癌は取り除けないように見える。



しかも、あれだけの広がりを見せている癌が、

その範囲にとどまっているとはとても…

思いたくないが、とてもその範囲にとどまっているとは

考えられない!



2016年11月、ディズニーで七五三をやった時の、

肉組織が異常な形を形成した時に

すぐ検査をして切るべきだったんじゃないのか(ノ_<。)



どうか、どうか、この考えが間違いであって欲しい。






この日の記録はここまでになっている。






今でも、本当に放射線治療の後は、



副作用からの回復も含め、



2~3ヶ月近くの療養期間を経過しないと



手術が出来ないのか、疑問を持っている。






あの時に、明らかに腫瘍らしきものが



顎の下にコブを作り始めた時に、



即座に再発だとして手を打てば



命までは奪われずに済んだのではないかと、



妻は後悔していないと言っていたが、



私は、今でも後悔の念は無くならない。






でも、



あの時は、あれで精一杯だった。



私も、



妻も。