~漂流中~

2017年6月、舌癌になった妻(39)が亡くなった。ADHDの息子(6)、頼りない自分(41)を残して…

■舌癌33 舌、右下顎摘出手術目前

2017年1月中旬



口腔低、右頚部リンパで転移、再発した扁平上皮癌。

口腔低の状態は非常に深刻で、

子供の拳大の腫瘍の表面皮膚が破れ、

内部組織が露出した状態に。

滲出液が出てくるため、

大きなガーゼで顎下を覆うようになっていました。



舌、下顎の大部分切除を伴う手術を予定し、

少しでも生存確率を上げるために、

エビデンス上では良い結果を残している

術前抗癌剤投与で様子をみながら、

手術のタイミングを検討します。







1月16日



抗癌剤投与 1週間後



まだ副作用の波があるようで、

調子良い時に好きなものを食べて過ごしている様子。



血液検査の結果は良好。



ちなみに、抗癌剤治療や、放射線治療では、

薬種類、量等により、

骨髄による血液成分の生成を抑制してしまう

骨髄抑制という副作用が強く出ることがあります。



これが起きる理由としては、

主な抗癌剤や、放射線治療は、癌のDNAなどに作用し、

”活発に細胞分裂をする組織に対して、特に効果が高くなるようにしている。”

為であり、

癌細胞に次いで細胞分裂が活発な骨髄細胞が

特に影響を受けやすい為だと言われています。



これが起きている時の深刻な問題としては、

免疫細胞の働きが最悪0になり、

常にその辺にある極微弱な細菌であっても、

体が抵抗出来ず、そのまま死に至る可能性が

飛躍的に高まる。

という恐ろしい副作用となります。



骨髄抑制
Pfizer
https://ganclass.jp/confront/associate/marrow.php



特にフルドーズの抗癌剤の後は厳重な注意が必要で、

上記サイトに、副作用時のグレードが出ていますが、



妻のこの後の治療の中でも、

グレード4程度の副作用までは行くことがあり、

無菌室への移動や、場合によっては、

抗癌剤副作用により死に至るという可能性

への対処が必要になる事も実際にありました。



抗癌剤はどの程度効いているのか…

腫瘍の見た目は変わらず、

浮腫のせいで飲み込みがしにくく、息が苦しい。



息が苦しいという状態を何も改善できず、

ただただ抗癌剤の効きと、

副作用が治まるのを待つ以外に

何も出来ない事が余りにも辛い日々が続きます。






1月17日



私の風邪が治り、久しぶりに会いに行けた。



想像していたよりも調子は良さそうに見え、

副作用も寝てしまえばあまり気にならない、と本人談。



顎の創部の状態は、ガーゼ等でハッキリとは見えないが、

抗癌剤前までは、両頬に浮かび上がるように見えていた

無数の毛細血管のような赤みが無くなり、

頬が綺麗になったように見える。

見た目がハッキリ変わるのは、

抗癌剤の効果が見えているようで嬉しくなる。



しかし、右頚部リンパのしこりは

やや大きくなった感じが…

全身転移が起きないことを祈る。






1月21日



抗がん剤の経過も体調も良く、

土日で外泊許可を取り、妻実家へ。



抗がん剤の副作用がそこまで辛くなく、

厳しい症状も出ないのであれば、

癌にはたしかに効いているように見えるため、

即手術よりも、

もう1クール続けたいような気持ちにもなる。



これは術前抗癌剤治療のエビデンスからの気持ち。

そのような効き方をする患者が

しっかりと癌を縮小させてから切除手術をする事で、

その後の経過が良好な傾向がある。



抗癌剤の副作用よりも何よりも、

癌が広がってしまった時の方がよっぽど辛いのだから…



これから2週間は、抗癌剤を投与しない休薬期間となるが、

体に残った抗癌剤は、癌にはまだ効果が続くのか、

それとも、また癌が大きくなりはじめてしまうのか…



癌治療とは、常に自らの命を掛けた

後戻りが出来ない運命のルーレット。

常に当たりを引き続けなければならないという、

有り得ないほどの強運が無ければ

生きて帰ることも許されない、

最悪のギャンブルであることを再認識させられる。






1月22日



早朝4:00頃、

妻からLINEが入る。



飛び起きて見てみると、



👩取得コイン数スゴーイ(゚◇゚)!

f:id:aegis-pilebunker:20190206164224p:plain



ツムツムは妻の元気のバロメーター♥

痛み辛さを忘れたい時にもやっている事がありましたが、

吐き気や、うなだれるほど辛い時には出来ないもの。

ツムツムをやっているのがわかった時は、

あぁ、何とか調子よく過ごしてるかな、と思えました。

それにしても凄まじいコイン獲得数(笑)



🧑たまに夜起きてるけど、やっぱり痛み止め飲むから?



👩ううん、トイレ(笑)
 と口腔内乾燥かな。
 今は痛みはないよ。



🧑そっか。
 寝たり起きたりのサイクルが出来ちゃってる感じかな。



👩もしかしたら2/1病院で検査があるかもしれないから
 手術前だけど、そのあたりは外出とか出来ないかも。



🧑どういう検査?最近先生からはどんな話されてる?



👩手術前にする、いつもの検査。
 心電図とかCT。



🧑そう言えばこないだ造影剤のCTやったよね?
 造影剤のCT結果聞いた?
 多分目的は、有茎皮弁とかの時の
 縫合する血管の特定なんだろうけど。



👩うん。どこの血管が使えそうか見たんだって。
 そしたらお腹からが良さそうと言っていたよ。



🧑え?遊離皮弁になるってこと?
 有茎皮弁じゃなくて?



遊離皮弁とは、
手術で大きく欠損する肉組織を、
自分の肉組織で補う方法の1つ。
完全に体から切り離した組織を使います。
腹、お尻、腕、足等から肉組織を切り離し、
欠損した部分を埋め、縫合します。
十分な血流が見込める血管がないと、
組織が壊死しやすいが、
手術での自由度は高く、
肉のボリュームも調整しやすいようです。



有茎皮弁とは、
上記同様、欠損した肉組織を埋める方法ですが、
完全に切り離さず、一方は体に繋がったままのため、
血流に対する信頼性は大変高く、
手術後に組織が壊死する事が少ない方法です。
しかし、切除部と隣り合わせの部位から肉を切り、
欠損した部分にその肉を押し込み、縫合するため、
ボリュームの大きい手術には向かない傾向があります。



妻の場合、
右下顎を、首の途中から舌の付け根まで
ごっそりと切除する計画のため、
右胸、右腋辺りの肉を広く切除して、
鎖骨あたりは繋いだまま肉をねじって持ち上げ、
顎の部分に部分に入れてしまう計画でした。
しかし、非常にボリュームが大きく、
それだけでは肉が足りないかもしれない、
と言われていました。



👩はて?
 そう言うことになるねぇ。



🧑んー
 どうなるんだろうなぁ…



これについては、

後日の手術説明を待つことに。







1月25日



特に悪い報告もなく、LINEでのやりとりも普通のため、

変わらず経過しているかと思いきや、

数日前から顎、舌が痛く、

食事も今までのようには取れない状態だという…



夕飯を一緒に食べよう!

と妻から誘われ、食事を用意して病院に行ったが、

誘った妻の方が、舌、顎の痛みで

なかなか食事が進まない。



うまく食べられない自分を奮い立たせようと、

私を誘ってみたが、それでも食べられない悔しさ。



痛み、息苦しさで、喉に食べ物が落ちていかない。



口の中、口腔低に大穴があいてきていて、

そこに入った食べ物をうがいで出す作業も大変で、

体力を削られる事、という嫌感もあると思う。



栄養をちゃんと取る、というのは

唯一自分で出来る、癌に対抗する力の筈なのに、

やりたくても、それが出来なくなってくるもどかしさ。

諦めの表情を見せる妻に、掛けてやれる言葉が無い。



食べたくても食べられない人の前で、

美味しそうに弁当を頬張る罪悪感は半端ではない。



しかし、

一緒に食べるのは逆に辛く、悲しくなるから

もうやめよう?持って帰るよ。

なんて、食事を中断すれば、

妻は、

私のせいで…

と、更に落ち込む事になる。



👩美味しそうに食べてるのを見るの好きなの♪
 しっかり食べて行ってね(*^_^*)



妻は、

食べることも辛い、

食べるのをやめる事も辛い、

それでも一緒にはいたいんだ、

という私の気持ちを本当によく分かっている。



私は、妻がこれ以上悲しまない為に、



🧑大丈夫、いつか食べられるようになるよ。
 その為に治療頑張ってるんだから。



と、励ましながら、

涙を堪えて、同じ病室の中で夕飯を食べる。



妻の創部の状態は、

抗癌剤投与が一旦終わり、休薬期間に入った途端に

急激に進行しているように思える。

元気が無い訳ではなく、

LINEなどでもよく話はするが、

それとは裏腹に癌は妻の体を蝕む…



すべてを一発逆転の手術に掛けるしかないが、

このあとの経過がいかなる経過であったとしても、

辛さを感じない経過をたどって欲しい。

今まで、妻の頑なな意志に巻かれてきたが、

この時の妻の様子を見て初めてそう思った…






1月26日



朝から妻と連絡が取れず心配していたら、

昼過ぎに返事が。



👩今朝はあんまり調子よくなかった。
 腫れと息苦しさはそんなになかったんだけど、
 寒気がして体温計ったら、なんと38.0℃!😱

 でも、今はだいじょーぶ✌
 お昼ご飯も少しは食べれたし😆
 熱も下がったよ。



🧑また熱出たんだ…なんだろうね?
 ご飯食べられたのは良かった!



この所、頻繁に突発的な高熱が出て、

解熱剤、抗生物質投与ですぐに落ち着くが、

とても不安になる。

創部からの感染だと思われるらしいが、

何も無ければいいが…






1月27日



👩おはよ~✨
 今日は体調良好。
 毎日今日みたいな体調ならいいのになぁ~😄



🧑こうやって連絡くるととてもホッとする。



予定されている手術は、

抗癌剤2クール目を行わずに、2月頭にやることになった。






いよいよ目前に迫った手術。

この手術を受けたあと、

自分の顔はどうなるのか、

舌が無くなったら、

飲み込むという事自体出来るようになるのか、

喋る事は出来なくなるのか、

体は動かせるのか、

痛みに耐えられるのか、

辛さを感じなくなる日は来るのか、

家に帰れる日は来るのか…






癌は、

自らの宿主を命を奪えば、

自らも息絶えることになる

という矛盾に疑問を感じることも無く、

ただひたすらに宿主の命を貪り続ける…