~漂流中~

2017年6月、舌癌になった妻(39)が亡くなった。ADHDではなくASDの息子(6)、頼りない自分(41)を残して…

■舌癌11 手術② 右頚部リンパ郭清手術

2016年2月末~3月



舌切除手術後、

癌の遠隔転移を防ぐために予定されていた頚部放射線治療

万が一の癌細胞の残存があったとしても、まだ集積もしていない状態であれば、放射線で完全に駆逐出来るだろう、という計画だったが、

妻の場合、
放射線治療のための検査を待つ間に、癌はリンパ節へ転移し、大きく成長てしまった。



放射線治療をするには、

どの部位に、どの方向から、どの程度の放射線を当てるのかを、精密に計算しなければならず、

ただ そのあたり に適当に放射線を当てるわけにはいかないため、

レントゲンのように簡単に行う事は出来ない。

いくつかの検査、計画、準備を経て、はじめて治療が開始される。



そのために、まず一番はじめに求められることは、

体の中に、
癌病巣部以外の炎症部等が無い状態である事。

これが検査を始める為の第一条件になる。

放射線を当てる位置を決めるための検査で、余計な炎症反応があると、それが癌によるものなのか、他の理由なのかがわからなくなり、放射線を当てる位置が決められなくなるからだ。



しかし、最もこの条件を邪魔してしまうのは、

皮肉ながら、

癌治療で標準的に行われる切除手術後の、傷が治っていくまでの炎症反応。

これが治まるまで待たなければ放射線治療計画を立てるための精密検査が出来ない。

(ちなみに、理由こそ違いますが、切除手術後に抗がん剤治療を行う場合も、ほぼ同等の治癒期間が必要です。)



癌の転移や再発を防ぐためには、

一刻も早く次の対策を開始したいところですが、

それがすぐには出来ないというジレンマがここでも発生する。



さらに、癌細胞は、
自分自身の体を作っていた細胞が遺伝子レベルで変異したものであり、

異常なまでの分裂能力を獲得し、
(本来の治癒、再生能力とは異なる無秩序な自己増殖分裂)

アポトーシスが機能しなくなってしまった細胞。
(すべての正常細胞が持つ、古くなった細胞が異常を起こす前に死滅して、新しい細胞との代謝をするための遺伝子レベルの自殺プログラム)


そのため、体が傷を癒そうと頑張っている時は、
癌もあたかも正常細胞であるかのように沢山の栄養を受け取り、異常分裂を繰り返し、活発な自己増殖をしてしまう、と言われている。



少し話が横道に逸れますが…

放射線を受けた癌細胞だけは、逆にこの活発な細胞分裂が癌自体を追い詰めていく事になる。

放射線は、遺伝子にダメージを与える事で細胞を破壊する効果があるが、
特に細胞分裂による遺伝子の複製(自分自身のコピー作成)の際に、正しい遺伝子情報のコピーが出来ずに、コピー先も、コピー元も、双方正常な細胞になりきれずに死滅してしまう、という効果が癌の活発な増殖活動と相まって、癌を潰す最大効果となる。



細胞が癌化するしくみ (国立がん研究センター)
http://ganjoho.jp/public/dia_tre/knowledge/cancerous_change.html



癌の標準的治療 (J-Stage)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/joma/120/3/120_3_313/_pdf



よって、癌が活発に活動する際に、放射線治療の効果が最大になるように調節が出来れば、高い治療効果を望むことが出来る。

しかし、放射線は癌だけでなく周囲の正常細胞にも同様に遺伝子損傷を与え、正常細胞も同様に死滅させてしまう。

しかし、正常細胞には破損した遺伝子情報を、少なからず正常に戻そうとする働きがあるため、
また、癌よりは活発な分裂が起こらない細胞が多いため、癌細胞が死滅するほどの放射線被爆をしても、正常細胞は何とか持ち直す 可能性がある という僅かな希望を信じて、放射線治療を行う事になるのです。

(正常細胞でも活発な分裂をする部位はあり、そこには放射線治療は適用外となるか、より最新技術のピンポイント照射系のトモセラピーや、陽子線治療などが適用可能かどうかを確認するくらいしか無いと思います。) 


放射線被爆後にできるDNA損傷に対するヒト細胞の防御機構 (J-Stage)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrsm/13/1/13_79/_pdf



さらに、そこには、放射線によってランダムに破壊された遺伝子により、放射線被爆による新たな癌が発生するリスクもあります。

これも、癌治療におけるジレンマのひとつになる話ですね。



話を元に戻しましょう。



次の検査、治療が出来ない期間に癌転移が発生し、

放射線治療をキャンセルして、右頚部リンパ郭清手術をすると決めた妻。

2月下旬、まだ体調も万全ではないなか、



社員旅行で熱海に行ってくる!



と言い、突然聞かされた私、妻両親の困惑と心配をよそに、熱海への1泊旅行へ。

会社のイベントには進んで参加していた妻、癌発覚から約半年の不自由をはね飛ばすかのように、楽しい旅を満喫できたらしい。

心配もしたが、久しぶりに妻の楽しそうに話をする姿を見ることができ、私も嬉しかった。



2016年3月9日

手術前日、準備のため入院。



2016年3月10日

右頚部リンパ郭清手術の当日。



この時の、手術前後の私の記憶が曖昧で、記録も正確に残っていません。
手術後、安定するまでICU管理と言われていたため、手術後もすぐには会えず、病室に戻った後からの記憶が残っています。

手術の立ち会いは妻両親が行い、自分は仕事が多忙な時期のため、妻のご両親から 仕事に行きなさい と言われていたような気がします。



手術は朝10時頃からおよそ5~6時間。

手術の内容は前回にもお伝えした通り、



右耳の後ろから、

首右側の中央を通り、

顎の中央先端まで、

下弦の半円を描くようにメスを入れ、

Yの字のように、弧の中心から鎖骨に向かって縦にもメスを入れる。

皮膚をすべて捲り上げ、その範囲にある殆どのリンパ節を筋繊維と共に切除する。

また、頸静脈が癌転移したリンパのすぐ近くにある事から、頸静脈の一部も切除し、人工血管と差し替える。



頚部リンパ付近には重要な神経が多くあるため、

顔の神経、顎、唇付近の神経を傷つけて右顔の麻痺が起きる可能性や、

声が出しにくくなったり、しわがれ声になったり、嚥下障害などが起きる可能性、

また、右肩の神経にも影響があり、腕を横方向に上げたとき、肩より上には上がらなくなるとの事。

あとは、肩こり。
リンパを取ると老廃物の流れる先が無くなるため、猛烈な肩こりになるらしく。
実際、後の話ですが、この肩こりには相当辛い思いをしています。

さらに、頸静脈の切除と人工血管への差し替えを行うと、首回りの腫れがひどくなる事があり、場合によっては食事や呼吸が出来なくなる可能性があるため、

その場合は気管切開による気道の確保と、

経管栄養の為の管を鼻から胃まで通す。



気管切開は、手術中にやるなら本人に苦痛は無いのですが、術後に苦しくなるようなら切開する、という判断らしく…

やるなら全身麻酔中にやって欲しいよ🙍

って誰でも思いますよね💧



これら術後の心配事は沢山ありましたが、

ここでも妻のど根性。



ICUタブレット使えますか?('▽'*)
どうせヒマだろうからツムツムやってたいなー



いや無理だろ(笑)



出来る限り辛い思いをして欲しくないと思う私と、

痛ぇもんは痛ぇんだよ。そんなの医者が何とかするんだよ。



とバッサリ切り捨てる妻…

性格がとてもよく出ています(笑)



というやり取りは何日か前の、術前説明のときの話。



きっとこの日も、手術室へ孫悟空のように勇ましく入っていったのでしょう。



手術は長い時間が掛かりましたが、無事終了し、そのままICUへ入った事を連絡で確認。



経過が順調であれば、明日にでも一般病棟へ戻る予定だと聞き、とりあえずはひと安心。



術後の状況はまた次の話で。